【芦生】芦生研究林・上谷 区画法でのシカの個体数調査


【山 域】芦生研究林・中山神社区画/長治谷区画
【日 時】 2013年11月30日(土)~12月1日(日) の2日間調査
【メンバー】京都大学の皆さん19名と一般調査協力者5名の合計24名 
芦生研究林のシカ (ニホンジカ、カモシカ) の個体数調査は、京大の森林生物学研究室の
研究者のみなさんが「ABCプロジェクト」(芦生生物相保全プロジェクト)として毎年取り
組まれている基礎調査。個体数調査からシカの個体数密度を推定して、将来の適正な生
息数の割り出しなどの基礎データとして活用される。

芦生の森の自然は、僕が歩き出した20年ほど前の植生とは大きく違う「危機的」な事態に
までなっている。その原因として、「芦生の森バスツアーなどでの多くの人間による林床の
踏み固め」「カシノナガキクイムシによるナラ枯れ」「過剰な密度のニホンジカによる食害」
「無断入林での貴重な植物の盗掘」「猟師の高齢化で狩猟圧が低下」などがあげられている。

芦生の森のことでは、良くネット上で教えてもらっているFさんからの声かけもあり、いつも
「知ろう、守ろう 芦生の森」のボランティア活動時に「ミニ講座」などでお世話になっている
高柳先生からも「是非!」と言われたので、少しでも手伝いができるのであればと参加した。

冬になり、木々の葉が落ちて見通しが利くようになった降雪前の今がチャンスの調査だ。

初めての参加する学生さんもいるので、調査前の11月19日の夜に事前説明会が京大の
キャンパスで開かれた。
いつも参加されているFさんや、去年から参加されているHさんと共に僕も聴講した。
この調査のメール連絡ではいつもお世話になっているI君とも挨拶できた。

調査の方法は「区画法」。100ha程度の調査地を小区画に区切って、それぞれ区画を1~2名
の調査員が担当し一斉に踏査。目撃したシカやカモシカの個体数を、その調査地内にいた
シカの個体数として密度を推定する方法。区画は1万分の1の地形図上で線引きされている
ものの、もちろん登山道など全くない調査区斜面で、尾根や1/25000地形図や区画ごとの
その10倍の1/2500地形図にも現れないような小さな谷が入り組み、小さな崖や滝、そして
体を確保するためにつかまる木もないトラバース斜面も多々現れる区域でもある。

今回は予算の関係もあり、24人(京大関係19人+我々一般5人)のいつもより少数で
調査を担当する。
調査に参加する学生さん達は山歩きの経験がない学生もまだ経験の浅い学生もいる。
僕たちが足場を見極めてルートサポートする役目もあるとのことである。

普段よくしている登山や沢登りと大きく違うのは「歩きやすい尾根」や「登りやすいルー
ト」を地形図で見極めて歩くのではない点。担当した調査区内をくまなく前後左右の見通
し範囲や糞など観察するために、普段は絶対にルートとしては歩かないような急斜面の
トラバース的な斜面の上下移動が中心となる。


よって軸足に体重がかかり、一方の足に疲れが溜まりやすい。今回担当する長治谷の
区画Kと、中山の区画Iを地形図で見ると、左足が軸足になる左下がりの斜面歩きが多く
続くのが見て取れる。「登山とは違う。調査ルートを忠実に歩かないと・・・」

去年や一昨年の調査担当者が歩いたルート取りラインや、ブッシュや滝の障害物が記入
された概念図をI君に事前に送ってもらい地形図で予習。
東南アジア研のSさんが、GPS上で区画法で使用する区画を見れるデータを作成して
下さったらしく、それも送ってもらいカシミールで予習。

手持ちのハンディーGPSには去年や一昨年のルートを入れず、担当区画の範囲のみを
ルートとしてインストールしておいて、歩くライン取りは昨年のルート概念図を見つつ、現場
で判断して歩くことにした。

大半の人は京大に朝6時半集合される。僕はすごく遠回りになるので、須後の山の家での
集合の朝8時半までに直接行くことを了解していただいた。昨年は雪が舞った時期だった
ので、念のため28日(木)にスタッドレスタイヤに履き替えておいた。
(今年は耐震工事中で研究林内のセミナーハウスで宿泊できない為、山の家で宿泊する) 
   
家を朝5時過ぎに出て、吉野家で朝食。道の温度計はマイナス2℃を示していた。
山の家には7時半に着いた。天気は良い。
山の家の館長の今井さんに朝のご挨拶。「2日間、お世話になります」

山の家の横の駐車場のすぐ上に牝鹿がいたので「山の家で飼育しているはずはないし」と
思ってよく見ると、獣よけネットに引っかかってもがいていたのだ。ハンターさんが銃を持って
斜面を上がる。午前8時に「バーン!」静かな朝に銃声がとどろいた。

血抜きをした鹿を置いてハンターさんは下山。8時15分頃に到着した高柳先生達数名が鹿を
斜面のネットの所から下ろすのを手伝って、血が滴っている牝鹿を軽トラに乗せた。
獣よけネットの上部と下部で大きく植生が違う。ここもシカの食害が明らかにわかる斜面だ。

宿泊の用意等、調査に必要ない物品を山の家に置く。僕やFさん、京都のTさん、車の
運転でもお世話になるアウトドア事業をされている若手のKさんの4人のオッサン軍団は
2階奥の「上谷の間」。全ての部屋の名前は芦生の森の地名がついている。
Tさんは昨年、鈴鹿の蛇谷での沢登りで足を骨折されて、今日もリハビリも兼ねているとのこと。
「僕も蛇谷は相棒と溯行したことがあります。もう10年も前ですけどね・・・」とお話しした。
骨折されて間もないが、すごいパワーだと思う。

駐車場で点呼。高柳先生や担当学生からの調査説明の再確認のあと、係の学生の指示で、
僕らはKさんの車に学生さん達数名と乗り、4台の車に分乗し長治谷へと向かい出発。
   
【11月30日(土)午前・中山調査区/A区画からKまで13に細分された区画】
長治谷の作業小屋の前で、調査資料の配付。担当区画地形図2枚、ハザードマップ、調査
記入表、赤鉛筆、無線機、非常食等の配布があり、注意事項の説明が再度あった。

行動食、非常食を持ったかのチェック。そして各調査区の無線機のテスト。高度計の高度を
現在地の635mにセット統一。体調不全になった際の注意事項などを再度確認された。

今年はこの調査でお会いできそうだと思っていたOさんが、今年の夏にアルプスで滑落死
されたのが実に残念だ・・・。中山神社への橋を渡る前にみんなで黙祷した。

僕の本日午前の担当は「区画I」で、3回生のNさんと歩く。小柄な女子学生ではあるが、
Fさんともタヌキのため糞調査もされている健脚でまじめな学生。キリンの研究などもされ
ていて今回調査の経験者でもあるのが心強い。学生さんが主体的に調査できるように、
調査用紙や無線機はNさんに持ってもらった。(僕は自前で持ってきた地形図や表を活用)
 
中山神社のすぐ左手からの急な尾根をひたすら速く登る。先頭の高柳先生は実に速い!
流石に若い学生達は元気。息も切らさず登って来る。途中の調査区の人たちは次々に待機
地点で待機していく。僕らの調査区Iの起点は尾根を奥へ奥へと登り切らないとならない。
Nさんも流石に若くて元気だ。休むことなくすぐ後ろを登って来る。「若いっていいなぁ」

調査区Iの起点に到着したのを本部のI君に無線機で知らせて待機。起点に指定のピンクの
リボンをつける。周囲の様子を双眼鏡で見ながら、もらった地形図と眼前のなかなかの斜
面を見て左右の視野に入るルートをイメージする。
   
全員配置完了の無線連絡。高柳先生の開始の合図で、各調査区が無線機で「区画I、調査
開始します」と本部に通知して調査開始。起点から尾根を外れて斜面に突入。ゆっくりと
周囲を観察しつつ、足下も見て、糞や鹿の足跡なども見つけていく。

鹿を目撃したら「何頭か」が最重要で、牡か牝か、牡なら角は何尖か、どちらの区画へと
走ったかなどを記入しつつ、無線機で通知する。あとで同じ個体なら差し引く必要がある。
鹿の警戒音や足音を聞いても、どちらの調査区方面かを無線機で報告しつつ記入する。
   
昨年のルート概念図通りに歩くと、区画内の西南西支尾根の北部の斜面が見えない。
Nさんにそのことを伝えると「尾根にも一旦登り返しましょう」と熱心な返事がきた。

斜面の倒木とアセビのブッシュを回り込んで尾根に登り返して北部斜面を観察。
足跡や糞は3カ所あったが、個体は発見できず。

南斜面へ再度下り時計回りで調査区を観察。
もうすぐ終了点。現在地をハンディーGPSで再度しっかり確認しつつ調査区域に漏れが
ないように注意して観察した。
   
斜面を下りたところに定点観察カメラがあった。Nさんも苦労しつつ斜面を下ってくる。

担当区画の端まで来て「区画Iの調査終了します」と本部へ報告し、午後に僕とU君が
調査担当する長治谷の区画Kの最下部の横を歩いて長治谷の本部へと戻る。
   
   
本部ではすでに戻って来ているチームもある。
本部で調査区の報告書の清書をNさんがして、担当係の学生に提出。

次々に調査区からもどり、ランチタイム開始。みんなでお弁当を頂く。
天気が良くて気持ちよい。

【11月30日(土)午後・長治谷調査区/A区画からWまで16に細分された区画】
今度はU君とペアを組む。僕らは「区画K」を担当する。
小笠原で植生の研究などもしている彼も調査経験者で心強い。
池ノ谷の出合いまで車で移動。ここでも注意事項の説明後、私語禁止で起点へ移動開始。
ここの池ノ谷出合からサワ谷に抜ける尾根ルートは、昔はしっかりした道があった尾根。
今月2日に相棒と、たまたま申請していて帰路として歩いたばかりである。 
   
   
奥の北の区画を担当する高柳先生や僕らは池ノ谷の中を北進し、調査地点へと向かう。
東の区画を担当するFさん達はこの尾根を登っていく。先頭の両者の歩きは共に速い!
高柳先生が「ここで分かれてもいいですよ」とおっしゃるので先生達とは別れて、僕らの
調査区起点に近づくべく右手の急な斜面を息を切らせながらせっせと登る。
本当ならもう少し手前で分かれて斜面を登った方が起点には近いので良かったのだが。

やっと尾根に着くと、ウツロ谷実験区の鹿よけネットの最上部がある。これに沿って南角
まで戻り、左折して東北東方面へとまた僕らはだいぶ奥まで下って行かないとならない。
早く起点に到達しないと、近い区画の人たちの待機時間が長くなる。もくもくと歩く。
   
   
調査区Kの起点に到着。少し息を整えてからU君が「到着」の無線を本部に入れた。
目印のピンクリボンをつけ、開始の合図を静かに待ちつつ周囲を観察し斜面をチェック。
ここの調査区も午前同様に左下りの斜面をずっと進むことになるのが地形図でもわかる。

調査開始の合図。区画順に「開始します」の無線が聞こえる。
僕らも「開始」の無線を入れて調査開始。右斜面を注意しつつ進む。アセビやユズリハの
ブッシュでその向こう側(右手)が見えにくいところはあとで回り込ん進むので見える。
最初に下りすぎるともう下には歩道まで見えてしまうので中腹で右へと回り込む。
左下りの斜面をトラバース気味に歩行しつつ周囲をくまなく観察する。
つかむところが少なくてこの斜面もなかなか学生さんにはつらいのではないかと、時々
アドバイスする。「体を寝かさないように」「木の根があるのでこれをつかんで」
 
枯れた沢筋の源頭部をトラバース。ここがなかなかある意味やっかい。つかむ物がない。
バランスに気をつけて足場を見つけつつ進み。上に下にと観察。
「ここさえクリアーしたらあとは心配するような斜面じゃないよ」と右へと支尾根を回り
込む。糞を見つけるものの、個体の気配もない。
最後の水量のほとんど無い沢筋を下りながら上部の斜面を観察する。
   
サワ谷に出た。ここは11月2日にも歩いたのでよく覚えている。左斜面を観察しながら
ぐるりと時計と逆回りに斜面裾を回っていく。

調査終了地点で「調査終了」を本部に無線連絡した。
本部への帰路途中でFさんやTさんと一緒になった。
U君とは太陽光発電や火力発電、電気自動車、蓄電池などの話しをしながら本部へと
戻った。

長治谷本部で、調査書をU君が僕のルート図とハンディーGPSの軌跡を見ながら清書し
て提出。
午後3時半を回ると晴れていてもとても気温が低くて寒くなってくる。
   
各車で芦生山の家に戻り、4人ずつ風呂に入って、冷えた体を温めた。

前にMICKEYとも見に来たHさんの描いた絵がある食堂に行き、みんなで夕食。
高柳先生のスタートの発声と同時に、お腹が空いた学生さん達の「頂きま~す!」の声。

夕食の地鶏鍋に「うまいなぁ」「おいしいわ~!の声が響いていた。
いろいろと鍋のお世話までいただいて、今井館長さんには感謝!

そして大きめの和室に移り、学生さん達との歓談。
いろんな分野の研究をしている学生さん達の話しはどれを聞いても新鮮で楽しい。
一緒に調査したNさんや、Fさん、運転でお世話になったKさん、そしてTさんと、タヌキの
ため糞の話しで盛り上がった。また、I君とはI君の故郷のことや自転車の話しで盛り上が
った。男子学生も女子学生も、自分の息子達より5歳ほど若く、明るくて良い青年達だ。
   
12月1日(日) 朝の5時半すぎに徐々に起床し、朝の準備。7時から食堂で朝食。
車のフロントガラスは氷でバリバリだった。芦生の朝は冷える。
もう芦生山の家では雪囲いをするので、荷物を預けられない。
Tさん、Fさん、そして僕の3台の車に、みんなの不要な荷物をデポしておくことにした。

【12月1日(日)午前・長治谷調査区/A区画から16に細分された区画】
今日は、昨日U君と2人で調査した「区画K」を1人で調査する。
昨日と同じく、池ノ谷を速歩で進んで、距離ロスを少なくすべく、昨日より手前で右斜面
にとりついて登りウツロ谷の実験区のネット角地を目指した。

ネット沿いに進み区画Kの起点を目指す。

調査開始-尾根を下り始めると鈴の音がしたから聞こえる。日曜日だし、もう一般入林者
が歩いている時間なのだ。「これで鹿が上に逃げてきてくれたらいいのだが」と思ったが
そうはうまくいかない。
   
昨日と違うのは鹿の警戒音が起点に行くまでに何度か聞こえた。
昨日、U君と慎重にトラバースした沢筋源頭部は今日は1人なので気が楽だった。
警戒音が何度も聞こえる。警戒音の方角と足音の位置を無線機で伝えた。
最後の沢筋を下ろうと下を見ると男性が沢筋を登ってきた。

姿がTさんに似ていたので「ここは区画Kですよ」と声をかけると、全く別人の登山者
で「上に見たい物がありましてね」とどんどんと沢筋を登っていった。
上に何があるのだろうか・・・。
   
   
サワ谷まで下ると、僕が向かう方からS君が来るではないか。
「ここは、どのあたりですかね」と言うので「ここはサワ谷でここは区画Kだよ。S君の区画Iは
この南側の斜面だよ」と伝えた。「地形図を読むってなかなか難しいなぁ」とS君。
「いやぁ、芦生の尾根や谷は登山に慣れた者でも、なかなか読図するのは難しいよ」と僕。
S君は学部は違うが、長男と同じ大学から京大に編入したと昨夜食事の時に聞いたので顔を
良く覚えていた。

左斜面を観察しつつサワ谷沿いに下ると区画HのTさんが下って来た。お互いに手で挨拶。
そのあと、先ほどのS君を見つけたら一緒に本部へ戻るように無線機で指令があった。
ちょうど、S君の歩いて行った方にTさんが調査に行ったので、Tさんが本部まで同行された。
   
   
最後の終点は昨日調査できなかった部分があるので、区画境界部の谷筋斜面まで回り込
んで見に行った。本当にこの谷筋の斜面もすごい食害だと思った
調査終了を無線機で告げて、本部に戻り調査書を清書して提出した。
   
   
   
弁当タイム。芦生山の家のおにぎり弁当と、山の家から差し入れの佃煮などが沢山ある。
学生さんたちはいろんな缶詰を温めてくれた。「そんなに食べられないよ」と声がする。
「あいたたた」と左足の太ももが吊りかけた。ずっと左足を軸足にして斜面をトラバース
歩行していたので左足のみ疲れているのだろう。ストレッチしてすぐに復帰した。

昨日の疲れもややある学生、二次会疲れや寝不足もある学生などの体調チェック等、高柳
先生の気配りは親のように実にすばらしい。暖かいコーヒーも学生さん達から頂いた。

【12月1日(日)午後・中山調査区/A区画から13に細分された区画】
夕方からやや天気が崩れそうなので、急いで午後の調査開始。
昨日Nさんと調査したこの「調査区I」も、午前同様に今日は一人で調査担当する。
やや寝不足と食後すぐの中山神社左横の急登は昨日と違い、なかなか息が切れた。
担当調査区が遠いので高柳先生にくっついて行くが、途中で学生さん2人に先に行って
もらった。女子学生のIさんはひょいひょいと駆け足で登っていった。「若さは宝だな」 
   
   
起点に着いたと思い「到着」の無線を入れて座っていると、あとで到着したFさんが
「ここは僕の起点。左手の支尾根の少し先だよ」と手で僕に合図。
「あっ、そうだ!」と気がついてすぐ先の正しい起点に移動して待機。「ホッ」として待機。
「あのピークで左にまがる」と頭に入れていたのに「着いた」と勘違いしてしまったのだ。

無線機で調査開始の合図があった。各調査区から「開始します」の応答。
昨日と同じく観察しつつ斜面を下り右へ右へとトラバース開始。
向かい斜面を下るFさんが見える。そのFさんの斜面で鹿の警戒音や足音が今日はよく
聞こえた。無線機で聞こえた位置を伝えた。こちらからも双眼鏡で見るのだが、木々の枝
が重なっていて、鹿の警戒音と足音は聞こえど姿は全く見えない。Fさんに託そう。
   
 昨日の軌跡とほぼ同じルートを歩いて調査した。実に警戒音が多い日だ。
他の区画からの鹿の個体の走る方向の無線が入る。牝鹿がよく目撃されているようだ。

最後の斜面を下り、定点カメラの取り外しを依頼されていたので、木に取り付けられて
いたカメラを回収した。隣の調査区のTさんとU君と合流した。
まだ僕の調査区は少し先まである。警戒音が何度も聞こえた。
調査終了の無線を入れた。
   
すると、朝の調査区で谷筋を登ってきていた男性が、ここでも調査区の区画ラインをまた
登っていくのが見えた。「えらくマニアックな所を歩いてるなぁ」とTさん。「そうですね」と僕。

本部に戻り、調査書の清書をして提出した。すべての無線機なども回収し、調査終了。
昨日と今日の各区画の鹿の個体の集計。
   
芦生もここ数年のシカの調査では、猟師さんの協力も得てどんどん減り現在は「2~3頭/km」
の生息数で、健全な森では植生にほとんど問題ない程度の密度らしい。しかし、芦生の森では
これまでに林床の植生がことごとく食べられて破壊されてしまい、この少なくなった鹿の生息密度
でも全く植生が回復しない厳しい現実があるらしい。
まだまだこの森の植生回復への道は遠く、課題は多いといえる。
   
長治谷の小屋前に野鳥観察のグループがいた。見たことのある顔の人もいた。
車で入っていると言うことは許可者か研究者だろう。

我々も山の上を見て「あれは何の鳥だろう」と双眼鏡をのぞくTさんやHさん。
「あれは紛れもないカラスです~」と大笑いするKさんと僕。TさんもHさんも共に笑う。 
   
みんなで集合写真を撮り、2日間の調査は終了した。
それぞれの車に分乗し芦生山の家へと戻った。車内で爆睡する学生さん。
そして、芦生山の家の駐車場で、定点カメラで写っている鹿や熊の親子の動画、そのカメ
ラを木から取り外そうとする熊の手や鼻などの動画をノートパソコンで見せて貰った。

高柳先生の総括のあと、世話役の学生達に拍手を送り解散。
「お疲れ様でした!」「ありがとうございました!」 皆さんは京大に向かって帰っていく。

僕は、冷えた体を湯につかって温めてから帰路につこうと河鹿荘に寄った。
誰も入っておらず貸し切り状態。「あ~、いい湯だった」車に戻ったら雨が降り始めた。

登山とは違うルート取りで斜面を歩いて観察調査するというなかなか出来ない体験をする
事が出来た。いつも崖やいろんな斜面で動物や植生の調査や観察をしている学生さん達の
ある意味、登山者よりも素晴らしい脚力と読図力と頑張りに感動した2日間だった。

2日間とも、本当に天気に恵まれて良かった。
(追記/参考)
今年8月7日に「シカ、12年後に500万頭に倍増、環境省推計」という報道があった。

 農作物や山林を荒らす被害が深刻化しているニホンジカについて、環境省は8月7日、
 捕獲数が現状のペースにとどまった場合、平成37年度には北海道を除く全国で23年度の
 2倍近い500万頭まで増えるとの推計結果を公表。
 環境省がニホンジカ の数の将来推計値を出すのは初めてとのこと。
 背景には狩りをする人の高齢化に伴う狩猟人口の減少があるという。

 環境省によると、過去の捕獲数から23年度のニホンジカの生息数を261万頭と推計。
 23年度の捕獲数は約27万頭で、捕獲率がこのまま変わらないと仮定した場合と、
 捕獲率を増やした場合をシミュレーション。
 捕獲のペースが現状のままなら37年度に500万頭まで増えるが、2.2倍にした場合は
 171万頭に減り、2.9倍にすれば84万頭になるという。

 狩猟免許の所持者数は平成元年度の29万人から22年度には19万人に激減している
 らしい。やはり狩猟圧の減少はシカの増加に影響している。
 
   この1つ前は「【播磨】秋色の三草山と朝光寺のツクバネ」の記録です