沢【芦生】芦生研究林・カヅラ谷出合から中山までの植生調査溯行2017
注:事前に入林申請し、入林許可がいるルートである


【山 域】 芦生/京都大学芦生研究林
【日 時】 2017年4月29日(土)~30日(日)・1泊2日
【メンバー】F氏、矢問 
【コース】 1日目:須後~カヅラ谷出合-七瀬-大谷出合-マガリ谷出合(テント泊)
       2日目:マガリ谷出合-岩谷出合-スケン谷-中山~下谷~須後
   
 2010年、そして2014年に実施した芦生研究林の由良川沿いのリュウキンカ(京都府:絶
滅寸前種・近畿:絶滅危惧種A/湿地開発、園芸用採取などが主要因)
オオバ キスミ
(京都府:準絶滅危惧種・近畿:絶滅危惧種C/森林開発、土地造成、道路工事などが
減少の主要因)
の分布数調査を今年も実施するとのことでFさんから協力要請が来た。
両種を見つけてはカウンターで数え、地形図に分布数を細かくプロットしていく作業だ。

オオバキスミレが最も良く咲いている5月の連休直前を逃すと、個体を見つけにくくなる。
今回は鹿の死体数も同時に調査する。
Fさんの調査に同行する僕の分も、芦生研究林からの入林許可を今回も取ってくださった。

由良川源流部沿いには、まだ雪がたっぷり残っている。冷たい雪解け水の沢装束と今回は
ツェルトではなくちょっと重いが1人用のVL-11テントを持って行くことにした。

軽く朝食を食べて朝4時に家を出た。天気予報は今日の午後に一時雷雨という予報。
あとは晴れていそうだが、雷雨時間とその増水と今日の寒気の流入がやや気にかかる。
   
   
5:25
美山かやぶきの里は静かな朝で4℃だった。少し休憩。男性が1人、写真を撮っていた。

芦生ロードパーク手前に並ぶモミジの紅葉がとても綺麗だ。春にも紅葉するノムラモミジ
だと思う。青空が綺麗だ。田歌付近の伐採はさらに進んでいた。

「テント泊予定地まで雨が降らないで欲しいものだなぁ。この寒気、夜はシュラフカバー
だけというのは失敗かも。ホカホカカイロも忘れてきたし・・」これが的中するとは・・。

須後の駐車場で午前7時に待合せだが、6時05分に着いた。Fさんも7時前に到着。
   
   
6:50
須後を出発。荷物がずっしりと重い。
トロッコ道をカズラ谷出合まで花を観察しつつ歩く。途中で釣り人が1人いた。
予算獲得で、軌道の橋が綺麗に板を貼り替えられているところが複数あった。

フタゴ谷の標識手前に大きな熊の糞。鹿の死体を食べたのか、毛が多く含まれていた。
   
   
   
9:20
カヅラ谷。付近には所々雪が残っている。2人とも雨具のズボンもはいて沢へと入水する。
僕は左岸をずっと担当し、Fさんは右岸を担当することに役割分担した。

「ひぇ~!!冷たい!」最初は痛いほど冷たいがすぐに慣れてきた。水量は膝程度。
通常の沢歩きなら歩きやすい場所を選んで遡って行くのだが、この調査ではよほどの通
過不能地点ではない限り、ヘツリを駆使して担当側を行くため、普通は絶対通らないだろ
うと思われる厳しい部分も越えて行かなければならない。重い体重+重い荷物を担いだまま。

2種類の植物の個体数を計数するため、2個のカウンターで個体数を数え、前回の記録に
今回の数値を書き足しつつ進むため予想以上に時間がかかる。重い荷物でヘツリもキツイ。 
   
   
   
11:30
七瀬で昼食タイム。僕はパンを2個と行動食。晴れていたのに風が出始め、黒い雲が少し
見え始めた。雨が降り出す前に、増水時のエスケープ場所も意識しつつ進行する要がある。

4尖の牡鹿の死体を見つつ、アラ谷出合を過ぎてホウ谷出合付近から雷が鳴り始めた。
次の雨宿り避難出来そうな所までは相当距離がある。両岸は逃げにくい急峻な斜面が続く。
「少し戻って右岸の岩小屋で雨をやり過ごしましょう」とFさん。

100mほど戻って岩小屋に入り込み待機していると10分ほどで雨が降り出し、稲光も雷鳴も
続き、雨脚もきつくなった。ここは以前親子3頭のシカの死体があったところらしい。
全く濡れることなく座っていられるが、雷はどんどん近づき最短2秒で大きく鳴る。「怖~・・」
Fさんの的確な判断で、本当にグッドタイミングで岩小屋に避難したものだ。

45分程度避難している間に雷鳴も聞こえなくなり雨も止んできた。
   
   
   
14:00
完全に止んだので岩小屋から出発。由良川の水量はほとんど変化がない程度で濁りもない。
1時間近い停滞は痛かったが、日暮れまでにはマガリ谷には何とか着くだろう。

異様なニオイ。やはり牝鹿の死体だった。流されてきたのだろうか。まだ皮もついている。
   
   
   
17:30
予定より半時間遅れでマガリ谷に着いた。良かった。まだ明るい。ありがたい。
前回はここまでで1.5Lほど水を飲んだが、今回は涼しかったから0.5Lの消費。

2段目の台地まで上がり、テントをセッティング。対岸には残雪も多い。気温は低くて寒い。
研究林内では、決してたき火をするわけにも行かず、カッパのズボンを脱いで膝から下の
濡れた部分を乾かすことも出来ないので、下半身や足もとがどんどん冷えてくる。

ご飯を温めて中華丼を作り食べた。パンも1つ追加。「秋鹿」を呑んでやや温まったが、
それを通り越すように寒気の影響で今宵は寒い。前回は暗くなるまでFさんとテントの
外であれやこれやと話していたが、今回は寒くて19時半前にはテントに二人とも入った。

ここからが地獄の始まり。シュラフではなくシュラフカバーのみ持参したのは失敗だった。
ライトダウンを着たり、靴下を履いたりしても震える。冷えで足の裏・太もも・二の腕までもが
攣り始め痛いのなんの!芍薬甘草湯を飲んでなんとか痛みが治まり3時間ほど眠れたが
朝まで寒さとの戦いだった。「ビバーク訓練と思え。体を動かせ。吐く温息を大切に」と。

夜中1時半にテント外に出たら「おお~っ!!」、アルプスで見るような星の数に感動した。
   
   
   
   
2日目(4月30日)
4:30

2時半に一度鳥の鳴き声。まだ暗い。4時半にやっと明るくなり、テント内の整理開始。
多くの鳥の声が森の朝を感じる。「ゆっくり暖かく眠る予定だったのに・・・。トホホ。」

5時には外に出て朝食準備をした。息が白くなる気温だ。テントも冷気で濡れている。
「あ~、よく寝た」とFさん。「うらやましい~」と僕。
僕は温かい具だくさんのクリームシチューとコロッケパン2つの朝食。コーヒーも沸かした。

6:30
濡れた靴下に履き替えて沢靴を履き、出発。水の中に入る。夜中に攣った足が少しずつ
動きやすくなってきた。夜中の寒さに比べたら動きながらの沢中歩きはずっとマシ。
天気は晴れ。暑くなるとこれまたバテる。それまでに距離を稼ぎたい。
今日も昨日に引き続き僕は左岸を、Fさんは右岸を担当することに。

一ノツボあたりで朝日が沢筋に差し込んできた。それが木々の間を通り光芒が美しい。
「こんな風景写真、米美知子さんの写真集にもあったなぁ~」とうっとりとして立ち止まる。
デジイチを持って来ていたら、PLフィルターでじっくりと撮りたい良い感じの風景なのだ。
   
   
   
ここからが由良川源流の核心部
気を引き締めて行かないと、両岸共険しくなって通過が一層厳しいルートに入る。
しかしにっちもさっちもいかないところも出てきて、バックして対岸に渡渉して回避し、また
左岸に戻ったりしなくてはならない所も3~4回続いた。

しかも、調査個体数も多くなってくるので立ち止まり、上段の台地状の所まで計数するの
で対岸のFさんと抜きつ抜かれつ、お互い姿が何度も見えなくなったりする進行になる。

10:00
三ノツボを過ぎたところで一旦緩やかな流れとなる。そこで一休み。
飲み水の補給を枝沢でして、スポーツドリンクの粉末を入れた。
陽が高くなり、左岸は日陰が少なくなり背中から照りつけられて、首の後ろ周りがヒリヒリ
しだした。日焼け止めを塗り、バンダナをヘルメットに挟んで日よけにした。

四ノツボからは再び地形が険しくなってくる。ヘツリと股下までの渡渉を繰り返すので、
脚も疲れる。そしていよいよシカメコだ。今日の底の砂の堆積状態や水深はどうだろうか。
   
   
   
10:45
シカメコ。Fさんはウエストポーチをザックに入れ、そのザックを頭に載せて渡渉開始。
僕はカメラの入ったウエストポーチを腰から首に付け替えて渡渉開始。それほど水量が
多くなかったので腰まで浸かるだけですんだ。カッパのズボンも履いていたため下着まで
は濡れない。

11:40
やっと岩谷出合に着いた。ここまで来ればあとは地形も穏やかになる。
そこで昼食にする。僕はパン2つと行動食。
急がなければ明るいうちに須後に帰れないが、中山からは10キロ強の林道歩きだから
それほど心配していないものの、明るいうちに須後に着く方が良い。

12:10
岩谷出合を出発し、再び調査開始。
日差しも強くなって実に暑い。「この熱量が夜中に欲しかった・・・」
ここからも左岸と右岸で群生出現地点が違うので、お互いに抜きつ抜かれつとなった。
   
   
   
もう朝から7時間以上も重い荷物を担いでへつったり雪解け水の中に入っているので、足も
相当疲れてきて、足の裏も痛くなってきた。
中山の少し手前で自生地がなくなるため調査もそこで終了。右岸の台地(歩道)に上がって
中山まで歩いた。流石に水の中と違って平地は歩きやすい。

14:40
下谷の量水計の所
で、沢中から離れて、沢靴から登山靴に履き替える。
乾いた靴下は水でふやけた足には天国。いつもながらこの瞬間が快適だ。

15:05
さて、長い林道歩きが始まる。しかもケヤキ峠までは疲れた足にはつらい登りが続く。
Fさんと林道法面に咲く花を観察したり、木からぶら下がる花を観察したり、ブナの新緑を
楽しんだりしながら、なかなか終わらない林道を歩き続けた。

16:00
ケヤキ峠
。登りは終わった。
二人とも足の裏も痛くなり、僕は小指も痛くなってきた。法面に咲く色々な花に癒される。
 
17:55
須後
のゲートに到着。駐車場に着き「お疲れ様でした」とFさんと握手。
駐車料金を入れてお別れ。気温は16℃

河鹿荘で誰もいないお湯に浸かって汗を流した。
久々のテント装備での寝不足沢中歩きは疲れた。体力が落ちたものだ・・・。

お湯から出て、「ガーーーン!なんてこった!」4月1日からレストランが15時まで
なったという掲示。人手不足らしい。カエデ御膳を食べて帰るのを楽しみにしていたのに。

仕方なく途中の「得得」で夕食を摂りいつものファミマでコーヒー休憩しつつ、22時前に
帰宅完了。玄関に相棒が出てきてくれて荷物を家に運び入れてくれた。感謝。

翌朝(月曜日)は5時に起きて、沢靴などを洗って干してから仕事に出た。
仕事から帰宅してすぐテント等を乾かし、宿題で渡された地形図の左岸にカウント数値を
清書したものをFさんにメール添付して送信。今回の調査協力も無事終了した。
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   

2日間で出逢った花たち(Fさんの記録から)
【咲き始め】
ホンシャクナゲ・ウスギヨウラク・ナガバモミジイチゴ・チドリノキ・イタヤカエデ
・オオカメノキ・オオイワカガミ・モミジチャルメルソウ・ワチガイソウ・ハシリドコロ・ツボスミレ
・オオタチツボスミレ
【盛り】
ハウチワカエデ・カスミザクラ・コバノミツバツツジ・アセビ・アケビ・ヤマルリソウ
・ツルキジムシロ・スミレサイシン・タチツボスミレ・シハイスミレ・オオバタネツケバナ
・ネコノメソウ・ヤマネコノメソウ・トキワイカリソウ・ハルトラノオ・ニリンソウ・ミヤマカタバミ
・ミヤマキケマン・リュウキンカ・サンインシロカネソウ
【咲き終わり】
イワナシ・キンキマメザクラ・ヤマザクラ・タムシバ・イワウチワ・バイカオウレン
・ホクリクネコノメ・タチネコノメソウ・チシマネコノメソウ・ヒメエンゴサク・ショウジョウバカマ
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