【湖西】岳山から見張山

視覚障害者の登山サークル「山ネット」 の サポート山行


【行き先】 湖西 岳山から見張山
【日 時】 2009年2月8日(日)
【コース】 JR近江高島駅−大炊神社−岳観音跡−岳山−オ−ム岩
      −鳥越峰(昼食)−見張山−JR近江高島駅
【メンバー】視覚障害者6名+矢問含む晴眼者20名 合計26名
「来月は私の担当だから絶対にサポートに来てね」と先月の山ネットでの谷口さんとの
約束を果たすべく、朝7時半に集合の大阪駅へ。
ホームでは、堂満岳へスノーシューを楽しみに行く囲炉裏のmilionさんとhiroさんと会った。
「雪が急激にとけてるので積雪量がやや心配ですね」とお互いに笑った。

湖西線を走る車窓からの比良山系の景色は年末に釈迦岳に行ったときや、2週間前に
妙理山へ行ったときとは大きく違い、山の斜面がほとんど白くない。
milionさんたちは志賀駅で下車。我々は近江高島で下車して、奈良組等と合流した。

「雪がないなぁ」「上に少し見えるけど、どうかなぁ」との声。
本日の参加者の足もとを見ると雪ルートにはふさわしくない靴も散見された。
スニーカーのように足首の無い靴で参加している人や、スパッツを持参していない人もい
た。これでは雪のある山でサポートする側がサポートされる側になってしまう人も出る。
靴の中に湖西のしめった雪が入るとすぐに靴下が濡れて足が冷え始める。
夏の防水のない布製の登山靴の人もいた。天候が悪くなれば足の感覚が無くなることを
経験していないのだろうが、こういう事前準備がしっかり出来ずに雪のある山の団体行動、
それも視障者のサポーターとして参加するのはいかがなものか・・・。
通常の登山企画なら主催者やリーダーから即座に参加ストップとなる対象者といえる。

こういう参加者もいる限りは、今回は「雪中登山」の趣旨よりも、積雪量が少ないことと、
降雪等の天候悪化が無いことを祈るしかない。その点では、今日は救われた積雪量と天候
といえるかもしれない。それほど寒くないので下着と上着の2枚だけとなった。
本日のコースリーダーはおなじみの桑島さん。「雪があるか無いかでどうなることやら」
大炊神社 大きな石灯籠
大炊神社で班分け 大きな石灯籠がある
9:25
立派な石灯籠のある大炊神社まで行って3つの班に分けた。
僕は山田さんを梅垣さんと2名でサポートする。交代しつつ山田さんのサポートをした。

獣よけゲートを越えて登りはじめる登山道は、最近工事で幅が広くなっている。溝が掘ら
れU字管を入れる用意がされている。地蔵様と「右、嶽詣り道」と彫られた古い石の道標
がある。
木を切っている男性が「観音さまから上は雪が残っているよ」と教えてくださり、雪の上を
歩くことを期待していた参加者は「良かったね。楽しみ〜」と声が上がった。

細い溝状でサイドに足がつくと滑りバランスを崩す上に、岩も出ていて段差がある為、
視覚障害者には実に歩きにくい。「山田さん、右足を先に岩に載せて左を膝高に」
前からと後ろからのサポーターの声で山田さんは頑張って登っていく。

「溝状のルートは積雪があれば簡単に歩けるのにね」と桑島さんに言うと「積雪で歩行が
楽なはずのルートが一変してしまった」と。階段状に石が組まれ始めたルートになった。
丁石もある。神楽石をすぎて20分ほどで、大きな石灯籠のある地点となり展望が開けた。
「白坂」では右手に白い斜面が木の間から見える。石の祠を過ぎると「弁慶の切り石」と
呼ばれている岩がある。

10:40
大きな木が見えてきたらそこが瓦が散乱している岳観音跡だ。雪が残っている。
ここで10分間ほど小休止して後続の班を待つ。木の間から琵琶湖も綺麗に見える。
岳観音跡 岩間を登る山田さん
岳観音跡からは雪がある 岩間を登る山田さん
桑島さんがトップで石や倒木をのけてくれている。足場が悪く、視覚障害者は力が入り疲
れるため、いつになく短い間隔で休憩が入る。
まだ上には雪の所もあることから、想定以上の時間を食うことが予想された。

ロープのある岩間を登り大岩壁の右手を巻くと展望が開け、六甲山のような花崗岩の明る
い砂地になった。左手にはこれから行く反射板のピークが見え、帰路に使う見張山への尾
根も見える。「先はまだ長いな・・・」
遠くに鳥越峰の反射板 石造観音三尊・元嶽岩屋観音
遠くに鳥越峰の反射板 石造観音三尊・元嶽岩屋観音
11:35
岳山 565m。「石造観音三尊・元嶽岩屋観音」と記されている。しばし休憩。
桑島さんが先行して石や倒木等の除去。反射板のピークがどんどん近づいてくる。
鳥越峰が近づいてきた 雪面が固くなってきた
鳥越峰が近づいてきた 雪面が固くなってきた
一歩一歩滑らないように 白い蛇谷ヶ岳が綺麗
一歩一歩滑らないように 白い蛇谷ヶ岳が綺麗
急な下りに入り、雑木林を通る。雪の残るジグザグの登りにさしかかり、登りペースが
ガクンと落ちた。ソールが柔らかい登山靴の人は靴先でキックしてステップを切れない
ので滑りやすくなる。視障者がそういう場合は滑るのでそれが恐怖につながり足が
スムーズに前に出なくなるのだ。「ステップを切ることのできる晴眼者が足らない・・・」

左手には白い蛇谷ヶ岳が綺麗に大きく見える。風がやや強くなった。
「風が冷たいね」
「風が冷たいね」
オウム岩にさしかかる斜面で「風も避けられるしここで昼食にしよう」という人と「あと
少しだからピークまで頑張ろう」という意見が出てまた停止。時間を見る限りは進んだ方が
正解の地点である。「よし、あと少し頑張るよ〜」と谷口さんの号令で動き始めた。

積雪があり、先頭を行く川原さんが足が滑るために遅れだした。全体が停止する時間が
増え、後ろのメンバーの体が冷え始めた。「早く進んで〜」と後ろからの声が増える。
筋肉が冷えるとバテやすくなりまた足がつりやすくなりトラブル発生の原因になる。

中本さんから「この班はなんとかするので、川原さんのサポート補助に行って」と指示が
飛んだので先頭の川原さんの所へ行った。
「川原さん、ザックは僕が持つ」川原さんのザックも担いで、川原さんのズボンのベルトを
片手で後ろから持ち上げ膝が折れまがり座り込むのを防止する。途中から濱部さんと
交代し、サポートローブで川原さんを引き上げるように登る。「川原さん、もうすぐピーク
だから頑張って」「荷物も担いでもらったし、引っ張り上げてもらったら行けると思う」
と川原さん。「よし、行くよ。体重を僕にかけてもいいからしっかりサポートロープを持って
て下さいよ。引っ張っていくから」と、ガンガン登る。

右斜面に滑り落ちそうな細い凍結部分を慎重に通過する。フリーなら登山靴でステップを
切ってあげられるのだが、いまはサポートで手が空いていないし、ステップを切ることが
できないのがツライ・・・。慎重に通過するしかない。
「左にもっと寄って、あわてずゆっくり!座り込んだら右に滑り落ちるよ」「了解」
無事通過。
左に折れて、先に行く桑島さんが見えたのでピークはすぐそこだ。

13:00
鳥越峰702m地点。関電の反射板がある。本日のルートでの最高地点だ。
ここで昼食タイムとなった。
「13時半に出発するので、みなさん食事にしましょう」と谷口さん。
雪面で風よけにネット沿いにツェルトをかけたグループや、雪との反対斜面の風のない土の
斜面に分散したりして昼食をとる。
僕は温かいラーメンを作って食べた後に、温かいコーヒーとパンで体を温めた。
無線機で位置情報を送信 「川原さん、頑張って」
無線機で位置情報を送信 「川原さん、頑張って」
無線機ID-92を出し、D−STARで守山RPTに向けてカーチャンクして位置情報を送信。
ちゃんと反応した。自宅にいるMICKEYは、今僕がいる位置をパソコンでAPRSのグーグル
地図でタイムリーに確認できたようだ。携帯電話の圏外でもこうしておけば安心してくれるし、
守山PRTからゲート越え設定で生駒RPT経由で、家にいるMICKEYへも呼びかけられる。

遠くに雪をかぶった湖北の山々も見える。

「出発時間」だが、まだ食べているグループがある。最初に言われた時間通りに食事を
済ませた大半の人達は、ずっと立って15分以上待ったために「せっかく食事で温めた体が、
また冷えてしまった・・・」という声もでた。実際に動かず待つ時間は寒い・・・。
「安心して。みんなに追いついたよ」
「川原さん、みんなに追いついたよ」
13:50
見張山に向けて下山開始。後ろの方を見ると、川原さんの様子がおかしい。アイゼンを
つけてもらったようだが・・・・と見に行くと、全く間違った付け方をしてもらったようで、
一歩歩けばすぐはずれる。山の道具は正しく使わないと意味がないし、間違った使い方は
逆に危険度を増すだけになる。
こんな腐った雪で、土がのぞいている部分もあるルートではアイゼンをつけるのは本来間
違っている。「雪=アイゼン」というのではなく雪の凍結状態や斜面の状態で決めないと
ならないのだが「雪があればアイゼン装着」を基本のように思っている人も多いのも事実
で、視障者にすすめるのは接触歩行に近いのでさらに慎重に判断しないとならない。

「きっとつまづいて歩きづらいだろうに・・・」と思った通り、土の部分に来ると木の根や石に
ひっかかり川原さんは転倒を繰り返す。「川原さん、アイゼンをはずそう」と伝え、アイゼンを
はずした。「ホント、つけない方が歩きやすい」と川原さんも体感してくれた。
「ザックは僕が持つから、つま先からじゃなくてかかとから雪面を刺すように歩いて」
「了解。ストックもなしで両手でザックを持って歩いた方が安定する」というので濱部さんの
ザックを両手で持って後ろを歩く川原さん。腰をかがめた状態になるのでしんどいとは思うが
膝折れが少なくなって滑って転ぶことが格段に減った。
前では濱部さんが川原さんの体重を支え、後ろからは僕が川原さんを持ち上げるスタイルで
速度が上がった。みんなと離れていたが、数分で追いつくことが出来た。

「川原さん、スパッツがめくれあがっているよ。雪が靴に入り冷たいのでは」
「大丈夫。このまま行けます」と頑張る川原さん。
見張山(音羽山)が近づくと雪が少なくなった。
「もうすぐ見張山だからね。そこを過ぎて東斜面になると雪は終わるから」「了解」
弱音を吐かずにザックにしがみつくように頑張って歩いている川原さん。
谷口さんも快調だ 見張山で集合写真
谷口さんも快調だ 見張山で集合写真
15:10
見張山(音羽山517.3m)。展望はなく通過してしまいそうな山頂。
ここで宗近さんの指示で記念写真を撮る。「はい、写しますよ〜」
そして、元気賞の発表。宗近さんは、なんと150回の参加。スゴイものだ。

下山路は杉の植林帯で全く雪は無いものの、両サイドが切れているところもあり注意が必要
な所も散在していた。足の疲れが相当あるのだろう川原さんの膝が簡単に折れ曲がるのだが
後ろから川原さんを持ち上げているので膝をついてしまうことはない。
本当に歯を食いしばって歩いているのがわかる。
「もうすぐ雪面は終わるからね」 沢沿いの右岸を下る
「もうすぐ雪面は終わるからね」 沢沿いの右岸を下る
「しっかり明るいうちにここの細い部分を通過したかったので良かった・・・」
送電線の鉄塔の所で琵琶湖が見えた。

植林帯を過ぎて下っていき、大きな堰堤のすぐ横の右岸を下っていく。民家の真裏を通る。
「あと50mでアスファルトだからね。」「やっと着いた〜」川原さんの笑顔が出た。
「日吉神社に着いたよ」
「日吉神社に着いたよ」
16:10
日吉神社。「濱部さん、川原さん、お疲れ様でした」濱部さんと強い握手。
トイレ休憩をとり近江高島駅へ。谷口さんはじめ、奈良組の皆さんと別れ、僕たちは今津駅で
乗り換えて大阪駅にて18時15分解散。

やはり雪の所へ行く企画は、それなりの装備と事前点検、天候悪化やトラブルが発生した
ときにサポートのロープワークが出来たり、歩けなくなった人を担いででも歩く体力のある
サポーターの数を、通常季節以上に考慮しておく必要がある。

今日は少ない積雪量と天候、そして川原さんや濱部さんはじめサポーターみんなの頑張りに
救われたラッキーな1日であっただけと考えることを忘れてはならない。
雪をなめてはいけないし、雪の頃に細い傾斜ルートのあるコースは危険度が増すことは
もっと念頭に置く必要があり、サポーターの迅速なルート工作などの対処が求められる。
本日の歩数は16,612歩だった。全身の筋肉が疲れたが、事故が無く本当に良かった。
本日のルート
本日のルート
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